01 夜空に恋した




向日君のケータイに、最近いたずらメールや広告が多く入るという話から

(忍足君は「岳人むっつりやなあ…」とからかってた)

じゃあ新しいメアドにすればいいんだ!という話になり

(宍戸君が「アドレス変えて、それをみんなに回すのがめんどくせえよな」と言ってた。そうよねー)

それではみんなで向日君の新しいメアドを考えてあげましょう ということになって

(「jumping-small-misogaku」と ジロちゃんがびっくりするぐらいの発音で提案してみんなで笑った)




そういえばオレ、のメアドしらねーな! という ことに なって…




思いもかけない展開から、赤外線でチャカチャカとメアドを交換して
「じゃあ帰ったらメールしろよ!」「お、覚えてたらねー!」なんて言い合って


内心すごくドキドキして、本当はすぐにでもメール送りたくって、でも手が震えて本人の前でなんて文字を打てなくって



いつもどおり家に帰って、お風呂に入ってご飯を食べて
テレビを見ながら、ケータイを改めてしっかと握っているのが今。


好きなアーティストが新曲を歌っているけど、今日だけはきちんと聞けそうにない。
向日君は結局、好きなアーティストからメアドを考えた。
しかもそれがあたしも何気に好きなアーティストだったから、うれしくてうれしくて。
ああ、違う違う。あたしは今からメールを打たなきゃいけないのに。
焦る指はいつものように軽やかにケータイの文字キーをなぞってくれなくて、「カ行」を押そうとすると「クリア」を押してしまう始末。


(えっと・・・うう・・・なんて打とう・・・文章が出てこない・・・かわいい絵文字が使えない!)

普通にメールをすればいいものなのに、普段はどんなふうに文章を考えていたかわからない。
そうこうしているうちに「サ行」を2回押したつもりが電源ボタンを2回押してしまって、がんばって打った文章が消えてしまった。


「あっ・・・」


思わずもれる声。画面はいつもの待ち受け。


(だめだ。もうほんと、ふっつーのメールにしよう)



ふー と息を吐いて窓の外を見ると、頼りなげに光る小さな星がふたつほど見えた。



「・・・・・・。」




宛先:向日くん
件名:です
本文:
メアド教えてくれてありがとう!です。
新しいメアドにして、いたずらメールは減ったかな?
あたしのメアドはまだ去年の秋に変えたばかりだから変なメールはこないけど
もし来るようになったら、次は向日くんも新しいメアドを考えてね
それではまた、明日。学校でね!





がんばって、できるだけ普通に、と考えた文章は
小さな星を見ながら送信キーを押してすぐに、向日くんのところへ飛んで行った。
「頼りない」と言いながら、その小さな星にすがっているあたし。
返事が来るかどうかが怖いんだ。






気づくとあたしの好きなアーティストはにこにこしながら歌い終わっていた。
がっかり。




♪〜

「!」

がっかりしているところに、ケータイが鳴り出す。
がばっとそれをつかむと、画面に「向日くん」の文字。




メールを打つ時よりも焦りながら、指が震えて、メールを開くと向日くんからのお返事。


差出:向日くん
件名:Re:です
本文:
やっとメール送ってきたな!
今、ほかのやつにもメアドを送ってるとこ。
学校でやれば赤外線で送れたのにな!
宍戸の言うとおり、メアド知らせんのがめんどくせー。
新しいメアドにして、最初のメールがからだぜ!
ところでテレビ見てたか?新曲やっと出たな!






返事が来た!とか
あたしのメール待っててくれたんだ!とか
あたしのメールが一番最初だったんだ!とか。

うれしいことがたくさんで、メールを見た瞬間きゅんとなって!






宛先:向日くん
件名:見てたんだけど
本文:
メール打つのに一生懸命になってて、ちゃんと聞けなかったよ・・・
聞いていればよかったー!
向日くんもあのアーティスト好きだったなんて、今日知ったよ。






あぁ、小さなおほしさま
ほんとうにほんとうに、どうもありがとう!