06 涙に恋した






テニスとあたしとどっちが大事なのよなんて
心の中では何回も叫んでいて。

だけど、それを言えないのは、言いたくないのは



テニスを本当に真剣にやっているんだと、わかっているから。










スポーツバッグを持つ手が、行きと帰りで違うのがわかる。
隣をあるくのは変わらないのに。岳人の気持ちが伝わる。

いつもきれいなユニフォームが、今日はどこか萎れていて。
それはテニスをしたからではない。汗を吸ったからじゃなくて。



「ごめんな。」


岳人がつぶやいた。



「岳人。なんで謝るの?」
「ごめん。ごめんな」


謝ることじゃない。岳人は今日も、テニスで負けた。
氷帝のテニス部といったら名門中の名門。その中でもレギュラーを死守する岳人。
いつも一生懸命で、それはテニスだけにではなくて。
そんな岳人が負ける相手っていうのはきっと、氷帝より強い相手だ。

負けて悔しい岳人に、何も言えないあたし。
謝らなきゃいけないのはあたしのほうなのに。



なんて言っていいかわからなくて、岳人の隣を歩いていると、岳人が立ち止まった。



「岳人?」
「なんで、責めねえの?」
「え・・・?」


うつむいて、あたしの目を見ない岳人。


「謝るのはあたしのほうだよ。ごめん、なんて言ったら、岳人を励ませるかわかんないんだ。」

「違う!」



「違うんだ、。」

「いっつもテニスばっかりで、遊ぶ約束だって何回も破ってて、なのに、オレ」


「いつも負けてばっかりだ。」


「いつもテニスばっかりなのに。より優先してしまってるのに」

「なのに、負けてばっかりだ!」



「・・・ごめんな!」





今度は顔をあげて、あたしを見つめる岳人。
彼の涙は小さなかわいい子供のそれではなくて








男らしい、あたしの好きな 涙。