07 赤に恋した







「あれ、日吉、コーラ飲んでんの?」
「珍しいな、日吉がコーラなんて。」



「そうですか?」





炭酸は嫌いだ。甘いだけじゃなく、下がぴりぴりと痛む。
向日先輩や宍戸先輩はよくこんなものを好んで飲むな。




(俺も、好きで飲んでいるんだけど。)





好きで飲んでいるとは言っても、たぶん向日先輩や宍戸先輩のいう「好き」ではない。




俺が好きなのはコーラの味ではない。コーラの赤が好きなんだ。

好きな理由を他人に言ったら、きっとみんな笑うだろう。俺の、好きな人も。









「あたし、赤が好きなんだ。」



ある日先輩のいっていたその言葉を聞いた日から、俺はコーラを飲むようになった。
それだけじゃない。
その日から俺の生活に、まるで先輩の唇のような鮮やかな赤色が交るようになった。


新しい歯ブラシは、迷わず赤を選んだ。
庭に咲いた赤い椿をひとつ、机の上に飾った。
ペンケースの中の赤ペンを、使い切る前に新しいものに変えてみた。








なんて子供じみているんだ。だけど、俺は先輩にとってただのテニス部の後輩で、先輩にとってはただの後輩。
たまに先輩たちに交じって言葉を交わす以外は、俺がただ見つめるだけ。


だからこそ何かしらのかかわりを何か持っていたくて、気づくと俺の中は「赤が好きなんだ」という彼女の言葉だけになっていた。
赤なんて俺らしくない。だけど、彼女の「赤」は、派手な赤ではなくて鮮やかできれいなんだ。


鮮やかで、きれいで。
先輩のように優しくて。







「へー、日吉がコーラ飲んでる。」
「あ、、先輩…。」
「赤、あたしの好きな色なんだ。」



ふいに降ってきたその声色で
俺は今、あなたの好きな色に染まっているでしょう。